福岡のFMラジオ局 LOVE FM。周波数76.1MHz。九州北部広範囲をカバーする10ヶ国語の多言語放送局。
Podcast
2019.01.10[Thu] 00:00
12月30日の放送番組から気になった一部の内容を紹介します。
ゲスト ミュージアムプロデューサー 砂田光紀 様
山本:今年最後となりました。今日はですね、大晦日、そしてお正月の過ごし方、昔からどんな風に過ごしていたのかなというのを聞いてみたいのですが、砂田さん、昔の文献などに残っているものはありますか?まずは大晦日から。
砂田:そもそも大晦日って何だろうと。昔は年取りの晩って言ったんですけど、それは世の中が年を取る、人間が一つ年を取るということで年取りの晩なんですね。この年取りの晩に、前回も少しお話をしたかもしれませんけど、要は時間が非常に不安定になるんです。前の年と次の年の間で時間が入れ替わらなければならない、そこはとても不安定な場所だから魔物が現れやすいんですね。昔の記録とか、つい最近までの習俗とかにもあったんですけど、まず一般家庭ではどうしたかというと、雨戸を閉め立てます。そして、履物を全部家の中に隠します。さらに井戸の釣瓶や竿、洗濯物を干している物干し竿ですね、こういうものを立てかけてその先に竹で編んだ籠を引っ掛けておくんですよ。家の中では囲炉裏に普段は焚かないような大きな木をくべて、一晩中火を絶やさないで家の中で静かに過ごすんです。これは何でかっていうことですね。
益田:言われたように、魔物が入って来ないようにということですか?
砂田:まず存在を消してしまうわけです。要するに、魔物が来た時にどこかに人間はいないかとなりますが、おりませんよという作戦ですね。じゃあなぜ竹の籠を下げておくのかというと、昔から魔物は嫌いな模様が決まっているんです。例えば、バツ、鍵型、L型のようなもの、渦巻きも嫌います。全世界的に魔物はこういうものが苦手なんです。
もっと言えば星形、陰陽師で出てきますね。星形にしゃっしゃっと印を切りますけど、これも封じ込める力を持っていますから、一筆書きの星を描いてみてください、真ん中に閉じ込められるじゃないですか。だから、籠は魔物にとっては非常に恐ろしいもの、ドラキュラにとっての十字架みたいなものですね。そういう模様はいろいろあって、ギザギザの鋸歯文(きょしもん)、鋸というのはのこぎりですね。のこぎりの歯の文様を鋸歯文というんですけど、こういうギザギザ模様とかも嫌います。そういう嫌いなものを用意するんですね。だから籠目というのは、昔から鶏を閉じ込めたりとか、そういうことにも使いましたし、あるいは鳥を捕まえるときにも使ったりして、要は封じ込める力があるから、竹の籠を外に吊るして、とっ捕まえちゃうぞと威嚇するわけです。村の入口に大きなわらじとか下げるところあるじゃないですか。あれも、この村にはこんなお前より怖いのがいるぞと。だから巨大なものを作るときは大体そういう理由があります。大晦日の晩は魔物が入ってくるということを昔の人はよく分かっていたということになります。そういうふうに意識していたということですね。
神社とかではどうかというと、今で言えば半紙ですね、和紙を人型に切って、その人型のものを力のある、例えば神社の宮司さんとかが一般の方の背中にサッサッサと当てて悪いものをそこに封じ込めて、その人型に切った和紙をフッとひと吹きして川に流すんです。これは実は雛祭りとも関係があるんですけれど、身代わりですね。その人についた一年の悪いものを全部付けて流して新しい年を迎えることで、魔物の侵入をそこでシャットアウトするという、大祓と言いますが、大祓の儀式をいまだにやる神社が九州にもいくつかあります。ですから大晦日の晩は浮かれて外に飛び出すよりも、本当は昔の人は静かに家の中で過ごしていたということになります。