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  • 【毎週日曜日18時更新(たまに変更)】京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画による福岡発オリジナル番組『こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)』のPodcastオリジナル番組。ヨーロッパ企画の情報をはじめ、ラジオ番組の裏側から、ふたりの日常や、皆さんから頂いたメッセージで成り立つ番組。自称「(ヨーロッパ企画ファンにとっての)沼」。Podcastのオリジナルの出演は、【ヨーロッパ企画】の石田剛太と、ダンスカンパニー【男肉 du Soleil(おにく ど それいゆ)】の団長こと池浦さだ夢。番組情報をメッセージはtwitterアカウント:@kochiyoro / 番組への参加はメールでkochiyoro@gmail.com で

    [ヨーロッパ企画HP] http://www.europe-kikaku.com/


イシダカクテル・クリスマス特別編 #1「ゆっくり始まる恋」  こちら原稿です!

2019.11.14[Thu] 13:00

こちらヨーロッパ企画福岡支部(通称 #こちヨロ

ラジオ版をお聞きいただいている皆さんにはお馴染みの、

ヨーロッパ企画・石田剛太が全監修をする

オトナの恋愛ラジオドラマ【イシダカクテル】が、

この程スペシャル版として、

2019年11月8日から全4回シリーズで、

LOVE FMの夕方の番組music×serendipityに登場!


#こちヨロ では、通常毎回が短編のストーリーでしたが、

今回のスペシャル版は、なんと全4回の連ドラ!!

……だったら、聞き逃しちゃった人や、もう1度ゆっくりイシダカクテルを味わいたい人もいると思いまして、

今回は放送後にオンエアした原稿を公開します!!



ラジオドラマともども、こちらもお楽しみください♪

イシダカクテル クリスマス特別編 #1「ゆっくり始まる恋」


仕事帰りの街はイルミネーションで、私にはちょっと眩しい。


少し寒くなってきてるし、夜も少し遅いのだけど、やっぱ綺麗なものは立ち止まってじっと見ちゃう。


明治通りに面したふくぎんの前で立ち止まって、空に向かって伸びる光のカーテンを眺めるのが、仕事帰りの私の最近の日課になっていた。

 

美雪「はあ~」

 

白いため息を吐いて自分の両手を温める。
そして上着のポケットにそれを突っ込む。

 

美雪「もうすぐ12月かあ」

 

街はもうクリスマスの準備を始めている。
この街のテンポは、去年まで私のいた田舎町と比べるとずいぶん早い。5倍くらいに感じる。

 

美雪「早いなあ」

 

月日が経つのも早い。新卒一年目でこの街にやってきた私には尚更だ。
でも早いのは月日だけじゃない。

 

明治通りを歩いてるおじいさんの速度だって、散歩してる犬だって早い。
バスなんて、1時間に1本しか来ない私の町と比べたら、まばたきしてる間にやってくる

 

男性1「ばりきれいとー」
女性1「やばいって、これインスタいきっしょ」

カップルたちの会話は早口で、私にはほとんど外国語だ。

 

写真を撮る速度だって並みじゃない。

 

私はポケットに手を突っ込んだままゆっくりと大名の方へ歩き始める。
仕事の遅い私は帰る時間も遅くなってしまうのだ。

 

 

美雪「なんか食べて帰ろっかなあ」

 

お昼から何も食べてなかったけど、空腹を通り越して何が食べたいかわからなくなっていた。
そういうことってあると思う。あんまり共感は得られないけど。

 

そのとき、コーヒー屋さんを見つけた。

 

騒がしい街と対比するように店内は静かで、ゆっくりとした時間が流れているように見えた。
店内を訝しげに眺めていた私に店員さんが声をかけてきた。

 

光一「どうぞ、ゆっくりしていってください」
美雪「あ、えっと…」


光一「お客さんいなくて暇で、ごめんなさい、話しかけちゃいました。
美雪「いえ、全然」


光一「お仕事帰りですか?」
美雪「はい、なんで分かったんですか?」


光一「いやスーツ着てるから」
美雪「ああそっか」


光一「毎日スーツ着てる人は無条件で尊敬しますよ。それにパンプスでしょ」
美雪「正直ジーパンとスニーカーで働きたいです」

 

 

にっこりと笑った彼はジーパンにニューバランスのスニーカー、そして鮮やかなグリーンのラルフローレンのセーターを着ていた。

 

光一「じゃあコーヒーっていうよりお腹空いてる感じ?」
美雪「そうなんですけど、なんか通り越しちゃった感じで」

 

光一「何食べたいかわからなくなるやつだ」
美雪「そう!それです!ありますよね、そういうこと?」

 

光一「あるある。じゃあそこの向かいのバーがいいよ。フードもおいしいし」
美雪「へーそうなんですね。でもバーなんて一人では入れないです」

 

光一「一緒に行ってあげようか?」
美雪「(戸惑って)ええ、いや、それは大丈夫です」

 

光一「だよね」
美雪「だって、まだお仕事でしょ?」

 

光一「そうだった。暇すぎて忘れてた」
美雪「お店終わるまでカフェラテ飲んで待ってようかなあ」

自分でもなんでこんなこと言ったんだろうってびっくりした。

 

美雪「(取り繕うように)っていうのは冗談ですけど、あの、カフェラテは、ほんとに飲んでいきます、はい」
光一「お!ありがと!じゃあどうぞ」

彼に促されて私はゆっくり店内に入った。

 

さっき自分が口にした言葉で私の胸はまだドキドキしていた。
しかも店内は他に誰もお客さんがいなくて、彼と二人きりだ。

 

光一「好きなとこ座って、貸切だから」
美雪「あ、はい」

 

広い店内にはゆったりとテーブルが置かれてある。

光一「カウンターでも」
美雪「あ、えっと、こっちにします」

 

私は彼からちょっと離れたソファ席に座った。
そして彼を意識しないようにスマホを触り始めた。

 

インスタグラムを立ち上げると、友達の誰かがどこかのイルミネーションをあげていた。
イルミネーションは寒いなか立ってなくても、スマホの画面の中でも見れる。
けど、さっき見たイルミネーションの方がきれいだと思ったから、私はいいねを押さなかった。

 

そっと彼の方を見ると、ちょうどスチームミルクを注いでいるところだった。
その真剣な彼の横顔に、私はなぜかドキッとして、慌てて目をそらした。
そしてまたスマホを触り始めた。

 

光一「お待たせしまた」

彼がカフェラテを持ってきてテーブルに置いた。

美雪「ありがとうござい…」

カップには白いミルクの泡の上に「おつかれさま」という茶色の文字が浮かんでいた。

 

光一「ちょっと時間かかっちゃった、ごめんね」
美雪「ありがとうございます。なんかうれしいです」

 

光一「こっちの人じゃないでしょ、君?」
美雪「はい。四月からこっちに。なんで分かったんですか?」

 

光一「なんとなく。話し方もゆっくりしてるし。四月からかあ、もう慣れた?」
美雪「正直、まだ慣れないです。田舎だったんで」

 

光一「そっか、騒がしいもんねこの街」
美雪「はい」

 

光一「でもここみたいに静かなところもあるし、いい街だよ」
美雪「そう思います」

 

光一「あ、いらっしゃいませ」

店内に入ってきたカップルに彼がそう言った。
なんだか少し残念な気持ちになった。

 

せっかく彼と…ってなに言ってんだ私。

 

 

光一「じゃあ、ゆっくりしてって」

といって彼はそのカップルの方へ行ってしまった。
私は彼の作ってくれたカフェラテを、おつかれさまの文字をなるべく崩さないように、ゆっくりと飲んだ。

オンエア情報

#1「ゆっくり始まる恋」
作・演出:石田剛太(ヨーロッパ企画)
出演:日下七海(劇団『安住の地 』)/ 石田剛太(ヨーロッパ企画)
特別出演:ALEX(LOVE FM)、YURI(LOVE FM)

 

上記ラジオドラマは、2019年11月8日(金)music × serendipity内で放送されました。

DJ紹介

  • 石田剛太 (ヨーロッパ企画)
  • Gouta Ishida (Europe-Kikaku)
  • いしだ ごうた
    1979年6月3日生まれ、愛媛県出身
    俳優/ラジオパーソナリティ
    趣味/写真・ラジオ鑑賞
    特技/バレーボール

    99年、第2回公演よりヨーロッパ企画に参加。以降、ほぼ全本公演に出演。
    多数の外部出演にくわえ、イベントでのMCや、ラジオパーソナリティとしての活動も多い。
    また、「ヨーロッパ企画の暗い旅」などのバラエティでも活躍。

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