福岡のFMラジオ局 LOVE FM。周波数76.1MHz。九州北部広範囲をカバーする10ヶ国語の多言語放送局。
TUE 21:00-21:30, Podcast
2019.11.18[Mon] 10:00
こちらヨーロッパ企画福岡支部(通称 #こちヨロ)
ラジオ版をお聞きいただいている皆さんにはお馴染みの、
ヨーロッパ企画・石田剛太が全監修をする
オトナの恋愛ラジオドラマ【イシダカクテル】が、
この程スペシャル版として、
2019年11月8日から全4回シリーズで、
LOVE FMの夕方の番組music×serendipityに登場!
、
さぁ、第2話目の原稿も公開しますよ!
急展開に発展するのか、それとも?!!
ラジオドラマともども、こちらもお楽しみください♪
イシダカクテル クリスマス特別編 #2「はじまりはいつも雨」
雨の音で目が覚めた。7時30分、日曜日の朝。
アラームをセットしてなくてもこの時間に起きたのは、雨音なのか、それともいつもの起床時間を身体が覚えているからだろうか。
起き上がってテーブルの上に置いてあるりんごを齧る
美雪「はあ、おいしい」
寝起きで喉が渇いてるからか、それとも単にりんごが瑞々しかったからだろうか。
amazonのアルファベット字面の頭に 【M】が書き足された
仕送りのダンボールを見ながら りんごを食べ終える。
それからもう一度ベッドに潜り込む。
社会人一年目の女子にとってしあわせは、母親からの仕送りと日曜日の二度寝だ。
ベッドの中で半分眠りながら、カフェラテを淹れる彼の横顔を思い出そうとしてみた。
けれど雨音が邪魔をしてうまく思い出せない。
それでまたうとうとと眠ってしまった。
美雪「お腹すいたなあ」
部屋の掃除をして録画していたドラマをいくつか見てユーチューブをダラダラ見ていたら、もう夕方になっていた。
ジーパンを履いて白いセーターを着て、外に出られるだけのお化粧をして、ちょうど雨が止んでたから傘を持たずにスーパーに買い物に出かけた。
街はもう暗くなっていて人もいっぱいだった、
天神は男女が手を繋いで歩くように義務付けられているのだろうか。
雨上がりの夜の街はカップルとイルミネーションの光でいっぱいだ。
美雪「カフェラテ飲みたいなあ」
ほんとにカフェラテを飲みたいのか、それともまた彼に会いたいと思ってるのか、だけどあのコーヒー屋さんには行けなかった。
どうせあの店もいまはカップルしか入れないようになってるだろうし。
スーパーで安くなっていたブロッコリーとキノコと鶏肉と、そして缶ビールを一本買った。
外に出ようとしたとき、運悪くまた雨が降ってきた。
光一「あれ?こないだ来てくれた…」
美雪「うそ…」
雨のなか傘を持って現れたのはカフェラテの彼だった。
美雪「ど、どうも」
光一「ずごい偶然!てか傘持ってないの?」
そう言って彼は傘を閉じながら私の隣に立った。やばい、ドキドキしてきた。
美雪「出るとき、ちょうど止んでたんで」
光一「じゃあ、送るよ」
美雪「え、いや、大丈夫です。走って帰るんで」
光一「いや風邪ひいちゃうよ。11月の雨なんて」
美雪「でも…(お買い物でしょ)?」
光一「じゃあさあ、いまから飲み行かない?」
美雪「え?」
光一「飲むつもりだったんでしょ?」
私の持つレジ袋に入った缶ビールを指差して彼がいたずらっぽくそう言った。
光一「ビール奢るから!」
美雪「…じゃあ、レジ袋持ってても入れるお店だったら」
ほんとは彼に教えてもらったあのバーに行きたかった。
けど近所のスーパーに行く格好の、しかもレジ袋を持った女子は、男性とバーに行っちゃいけないと思った。
光一「焼き鳥とかどう?」
美雪「好きです」
光一「おっけ!近くに美味しいところあるんだ。いつも混んでるんだけど、雨だし、いまならいけるかも」
美雪「お願いします!」
店員「はい、ビール2つ」
光一「ありがとう」
美雪「ありがとうございます」
光一「じゃ」
二人「かんぱーい」
美雪「おいしい!」
光一「好きなんだ?」
美雪「へ?」
光一「ビール」
美雪「あ、はい一杯目は」
光一「いいね~」
いますっごいベタな勘違いしてしまった。
光一「ていうか、お互いまだ名前知らないよね」
美雪「あ、そういえば!」
光一「俺も言ってなかった。光一です。光る一で光一」
美雪「美雪です。美しい雪って書いて」
光一「雪って珍しいね」
美雪「多分親が雪好きだったんです」
光一「ふふ、いい名前だね」
美雪「そうですか?夏が生きにくいです」
光一「たしかに笑」
美雪「雪降ったらからかわれてたし、美雪が降ってきたーって」
光一「ふふふ、好きだったんだよ」
美雪「そうかなあ、男子ってからかうのが好きなんでしょ」
光一「好きな人をからかうのが好きなんだよ」
美雪「好かれてる感じ、なかったけどなあ(ビール飲む)」
光一「美雪が口元くっついてるよ」
美雪「へ?」
光一「泡ヒゲ女子」
美雪「いやちょっと、からかわないでください!」
それから焼き鳥5本ずつとビール2杯分の話しをした。
美雪「誘ってくれてありがとうございました。うれしかったし、たのしかったし、おいしかったです!」
光一「うれしたのし大好き、じゃなくておいしいだね」
美雪「ええ(恥ずかしい)」
光一「また誘ってもいい?」
美雪「はい、誘ってください。あの教えてくれたバーに行ってみたいです」
光一「ふふふ、おっけ!」
積極的すぎる自分がありえなくて恥ずかしくなってきた。
光一「雨止んだね」
美雪「ほんとですね」
光一「送ってくよ」
美雪「だ、大丈夫です。雨止んでるんで」
光一「まあ、そっか」
美雪「はい。今日はありがとうございました」
光一「じゃあ、また」
美雪「また」
雨が止んでなかったらなあって思いながら、私は一人、雨に濡れた夜の国体道路を歩いて帰った。
オンエア情報
#2「はじまりはいつも雨」
作・演出:石田剛太(ヨーロッパ企画)
出演:日下七海(劇団『安住の地 』)/ 石田剛太(ヨーロッパ企画)
特別出演:DJ SUE(LOVE FM)
上記ラジオドラマは、2019年11月15日(金)music × serendipity内で放送されました。
2019.11.14[Thu] 13:00
こちらヨーロッパ企画福岡支部(通称 #こちヨロ)
ラジオ版をお聞きいただいている皆さんにはお馴染みの、
ヨーロッパ企画・石田剛太が全監修をする
オトナの恋愛ラジオドラマ【イシダカクテル】が、
この程スペシャル版として、
2019年11月8日から全4回シリーズで、
LOVE FMの夕方の番組music×serendipityに登場!
#こちヨロ では、通常毎回が短編のストーリーでしたが、
今回のスペシャル版は、なんと全4回の連ドラ!!
……だったら、聞き逃しちゃった人や、もう1度ゆっくりイシダカクテルを味わいたい人もいると思いまして、
今回は放送後にオンエアした原稿を公開します!!
ラジオドラマともども、こちらもお楽しみください♪
イシダカクテル クリスマス特別編 #1「ゆっくり始まる恋」
仕事帰りの街はイルミネーションで、私にはちょっと眩しい。
少し寒くなってきてるし、夜も少し遅いのだけど、やっぱ綺麗なものは立ち止まってじっと見ちゃう。
明治通りに面したふくぎんの前で立ち止まって、空に向かって伸びる光のカーテンを眺めるのが、仕事帰りの私の最近の日課になっていた。
美雪「はあ~」
白いため息を吐いて自分の両手を温める。
そして上着のポケットにそれを突っ込む。
美雪「もうすぐ12月かあ」
街はもうクリスマスの準備を始めている。
この街のテンポは、去年まで私のいた田舎町と比べるとずいぶん早い。5倍くらいに感じる。
美雪「早いなあ」
月日が経つのも早い。新卒一年目でこの街にやってきた私には尚更だ。
でも早いのは月日だけじゃない。
明治通りを歩いてるおじいさんの速度だって、散歩してる犬だって早い。
バスなんて、1時間に1本しか来ない私の町と比べたら、まばたきしてる間にやってくる
男性1「ばりきれいとー」
女性1「やばいって、これインスタいきっしょ」
カップルたちの会話は早口で、私にはほとんど外国語だ。
写真を撮る速度だって並みじゃない。
私はポケットに手を突っ込んだままゆっくりと大名の方へ歩き始める。
仕事の遅い私は帰る時間も遅くなってしまうのだ。
美雪「なんか食べて帰ろっかなあ」
お昼から何も食べてなかったけど、空腹を通り越して何が食べたいかわからなくなっていた。
そういうことってあると思う。あんまり共感は得られないけど。
そのとき、コーヒー屋さんを見つけた。
騒がしい街と対比するように店内は静かで、ゆっくりとした時間が流れているように見えた。
店内を訝しげに眺めていた私に店員さんが声をかけてきた。
光一「どうぞ、ゆっくりしていってください」
美雪「あ、えっと…」
光一「お客さんいなくて暇で、ごめんなさい、話しかけちゃいました。
美雪「いえ、全然」
光一「お仕事帰りですか?」
美雪「はい、なんで分かったんですか?」
光一「いやスーツ着てるから」
美雪「ああそっか」
光一「毎日スーツ着てる人は無条件で尊敬しますよ。それにパンプスでしょ」
美雪「正直ジーパンとスニーカーで働きたいです」
にっこりと笑った彼はジーパンにニューバランスのスニーカー、そして鮮やかなグリーンのラルフローレンのセーターを着ていた。
光一「じゃあコーヒーっていうよりお腹空いてる感じ?」
美雪「そうなんですけど、なんか通り越しちゃった感じで」
光一「何食べたいかわからなくなるやつだ」
美雪「そう!それです!ありますよね、そういうこと?」
光一「あるある。じゃあそこの向かいのバーがいいよ。フードもおいしいし」
美雪「へーそうなんですね。でもバーなんて一人では入れないです」
光一「一緒に行ってあげようか?」
美雪「(戸惑って)ええ、いや、それは大丈夫です」
光一「だよね」
美雪「だって、まだお仕事でしょ?」
光一「そうだった。暇すぎて忘れてた」
美雪「お店終わるまでカフェラテ飲んで待ってようかなあ」
自分でもなんでこんなこと言ったんだろうってびっくりした。
美雪「(取り繕うように)っていうのは冗談ですけど、あの、カフェラテは、ほんとに飲んでいきます、はい」
光一「お!ありがと!じゃあどうぞ」
彼に促されて私はゆっくり店内に入った。
さっき自分が口にした言葉で私の胸はまだドキドキしていた。
しかも店内は他に誰もお客さんがいなくて、彼と二人きりだ。
光一「好きなとこ座って、貸切だから」
美雪「あ、はい」
広い店内にはゆったりとテーブルが置かれてある。
光一「カウンターでも」
美雪「あ、えっと、こっちにします」
私は彼からちょっと離れたソファ席に座った。
そして彼を意識しないようにスマホを触り始めた。
インスタグラムを立ち上げると、友達の誰かがどこかのイルミネーションをあげていた。
イルミネーションは寒いなか立ってなくても、スマホの画面の中でも見れる。
けど、さっき見たイルミネーションの方がきれいだと思ったから、私はいいねを押さなかった。
そっと彼の方を見ると、ちょうどスチームミルクを注いでいるところだった。
その真剣な彼の横顔に、私はなぜかドキッとして、慌てて目をそらした。
そしてまたスマホを触り始めた。
光一「お待たせしまた」
彼がカフェラテを持ってきてテーブルに置いた。
美雪「ありがとうござい…」
カップには白いミルクの泡の上に「おつかれさま」という茶色の文字が浮かんでいた。
光一「ちょっと時間かかっちゃった、ごめんね」
美雪「ありがとうございます。なんかうれしいです」
光一「こっちの人じゃないでしょ、君?」
美雪「はい。四月からこっちに。なんで分かったんですか?」
光一「なんとなく。話し方もゆっくりしてるし。四月からかあ、もう慣れた?」
美雪「正直、まだ慣れないです。田舎だったんで」
光一「そっか、騒がしいもんねこの街」
美雪「はい」
光一「でもここみたいに静かなところもあるし、いい街だよ」
美雪「そう思います」
光一「あ、いらっしゃいませ」
店内に入ってきたカップルに彼がそう言った。
なんだか少し残念な気持ちになった。
せっかく彼と…ってなに言ってんだ私。
光一「じゃあ、ゆっくりしてって」
といって彼はそのカップルの方へ行ってしまった。
私は彼の作ってくれたカフェラテを、おつかれさまの文字をなるべく崩さないように、ゆっくりと飲んだ。
オンエア情報
#1「ゆっくり始まる恋」
作・演出:石田剛太(ヨーロッパ企画)
出演:日下七海(劇団『安住の地 』)/ 石田剛太(ヨーロッパ企画)
特別出演:ALEX(LOVE FM)、YURI(LOVE FM)
上記ラジオドラマは、2019年11月8日(金)music × serendipity内で放送されました。
いしだ ごうた
1979年6月3日生まれ、愛媛県出身
俳優/ラジオパーソナリティ
趣味/写真・ラジオ鑑賞
特技/バレーボール
99年、第2回公演よりヨーロッパ企画に参加。以降、ほぼ全本公演に出演。
多数の外部出演にくわえ、イベントでのMCや、ラジオパーソナリティとしての活動も多い。
また、「ヨーロッパ企画の暗い旅」などのバラエティでも活躍。